たいようの映画の感想

映画を観て感動しても、少し時間が経てば結構忘れてしまうんです。そんな忘れんぼうな自分のための記録なんです。

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気球クラブ、その後(DVD)

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 青春の儚さと冷たさと暖かみ
 淡いノスタルジーに包まれる映像詩人の真骨頂
 

 感想として言葉にするのが非常に難しい映画だ。園子温監督は常にそういった傾向にあるが、例えば「夢の中へ」のような作品ならば、アヴァンギャルドで感覚的な映画であり、物語を語る類のものではないということが一目瞭然なため、「メチャクチャだが抜群に面白い」と言えばそれでおおよそ説明がつく。
 だがこの作品は違う。監督の非常にパーソナルな感覚の積み重ねの末に、若者の青春というような物語を繊細に紡ぎ出している。観終わると、胸には確かな感傷が残る。淡い切なさがどこからともなく沸き立ってくるのだ。

  *  *  *  *  *

 冒頭から登場人物たちは何やら仲間内で電話連絡を取り合い、「村上さん」なる人物が事故にあったことを伝え合う。さらにその彼女だった「美津子さん」なる人物の連絡先が知れないことや、「村上さん」がどうやら死んだらしいこと、そして「村上さんを偲ぶ会」を開こうという話へと転がっていく。

 だがそれぞれが口にするのは「いやぁ、5年も前の話だしね」とか「俺、村上さんとはそんな親しくなかったし」とか、そんな冷淡な台詞ばかりだ。
 ある青年が言う。「5年もあればみんな変るよ。5年ってそういうもんだよ」

 ここから展開し、5年前の日々の回想を挟みながら「村上さんを偲ぶ会」の様子が描かれる。徐々に明かされる「村上さん」や「美津子さん」、集った若者たちの思い。

 空高く上る気球。部屋いっぱいのバルーン。バルーンに釣られた手紙。黄色い気球BAR。ゴヤの「巨人」を摸した巨大気球構想。

 どこかファンタジックなそれらのエッセンスと共に、淡々と物語は紡がれ、なんとも言えぬ後味を残してあっという間に終幕を迎える。

 岩井俊二に似た独特で不思議な空気感に序盤から引き込まれ、みどりと美津子のシーンで幕を降ろすという見事な引き際に、鑑賞後はゆっくりとため息をついた。

 物語の核となる大切な部分は最後まで明かされない。
 なのに消化不良な気持ち悪さが残らないのが不思議だ。

  *  *  *  *  *

 ある青年が言った「5年もあれば変る」という台詞を想い出す。5年は確かに短くない時間だ。5年もあれば本当に様々なものが形を変え、過去の面影を一切残さぬまでに変化を遂げることも珍しくない。
 だが、5年経っても変らないものも、確かにある。

 空という夢を追い続けた青年と、空に浮かぶ彼が地上に戻るのを待ち続けたひとりの女と、それを取り巻いた無邪気な男女たちの5年がゆっくりと心に響き、清々しさが胸に沁みてくる。

 うまく言い表せない感覚だが、この心地よい感傷は他の映画ではなかなか感じることのできないものだ。「映像詩人」と呼ばれる園子温の真骨頂はアヴァンギャルドな作品ではなく、こういった独特の間と空気で構成されるドラマだったのだと思い知らされた。

 荒井由美の「翳りゆく部屋」をモチーフに描かれた物語とのことだが、この歌が、しばらくは頭から離れそうにない。

≪どんな運命が 愛を遠ざけたの
 輝きは戻らない 私が今死んでも≫


  *  *  *  *  *

 夢により遠ざけられた村上と美津子の愛。
 村上が死んだ今、二人の輝きはもう戻ることはないが、気球クラブの青年たちの間では、少なくとも二郎の心の中では、二人の愛は輝き続けるのだろうと思う。


(2006年/日本/園子温監督)

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