たいようの映画の感想

映画を観て感動しても、少し時間が経てば結構忘れてしまうんです。そんな忘れんぼうな自分のための記録なんです。

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人のセックスを笑うな

movie[1]


 男ってどんな女に想い焦がれるの?
 そう思案する女性はさぞ多いことだろう。だがこれを見れば分かる。
 �聡明さを滲ませる物静かな佇まい、しかし無邪気に男の体を吸う色気の塊のような女。
 �強がって勇んでいても本当は怖がりで、相手を想うばかりで自分を抑えてしまう弱い女。

 この映画の監督である井口奈乙は何者だろうか。
 男のツボを全て心得たようなこの演出はデビュー2作目の手法とはまるで思えないが、どこからか抽出されてくる瑞々しい空気感はベテランや中堅監督の感覚ともかけ離れている。


「なんてことはない話だけど、なぜか胸を掴む物語」
 原作を読んだのは数年前だからはっきりとは覚えていないが、こんな風に感じていたと思う。
 文章量も少なく、それ故情報量も少ないにも関わらず、なぜかその場面での艶っぽく乾いた匂いやひりひりするような切なさが溢れ出てくるような本だった。
 それが文体が成した技だったのか、物語の展開自体が緻密だったのか、それとももっと別のなにかがしかけられていたのか、それはもう分からないし覚えていない。 

 だが映画を観ている時から、あの原作そのままの世界をどっぷりと味わう感覚を覚えた。

 定点、長回し、引き画の多用。
 これらの要素が必然的に抽出する静けさと切なさが、物語と溶け込んで観るものの心に沁みる雰囲気を作り出したことは間違いない。

 
 *  *  *  *  *


 しかしながら、これは観た人ならば全ての人が声を揃えるであろうが、役者の魅力勝ちだ。
 永作博美の静かな佇まいと時折見せる子供のような笑顔は、過去に観たどんな女性よりも艶っぽく、色気に満ちていた。「好きだ、」もそうだったが、静かな色気と魅力ある女性を演じるのが彼女は抜群にうまい。もう憎いほどに魅力的だ。

 さらに、片思いの彼を取られた女を演じる蒼井優もまた、抜群にいい。役どころからしてぴったりではあったが、吹き出した感情をみるめにぶつける観覧者のシーンや、ぶつける場もなくただああするしかなかったホテルでのシーン、そして全編で見せる憂いの充満したあの瞳。間違いなく彼女の魅力と実力が最大限に発揮された作品だろう(「フラガール」も「クワイエットルーム〜」も観てないけど)。

 どちらもまさに絵に描いたように、多くの男性たちが求める理想の女性像であったように思う。
【 抱きたい=愛されたい=色っぽいえり、そばにいたい=愛したい=可愛いえんちゃん 】
 これはあくまで僕個人の意見だが、こんな風に感じた男性は多いはず。

 男ってのはいつだって、エロそうで色々教えてくれそうな年上の綺麗な女性と、そばにいて愛らしくて楽しく一緒にいられそうな可愛い女の子の間で揺れるものだと思うけれど、この映画にはこのどちらもが凛として在るのだから、男としちゃぁ逃げ場がない。完敗である。

 人物が米粒程度にしか見えないほどの引き画や、無駄に長いように思えたワンカットすらも、彼女たちがフレームにいることだけで全く退屈を感じさせない。これも二人の魅力、もしくは男が求める女を知る監督の、あざとい意図だろう。


 *  *  *  *  *


 恋をして、溺れて、周りを見失って気がついて、また恋をして。
 そうやって男も女も年を取る。
 死ぬほど切なくて死ぬほど孤独でどうしようもないほど切なくて。
 そんな苦しみの部分はあまり描かれないけれど、みるめも、えんちゃんも、堂本も、もしかしたらユリも、そんな辛い夜を超えて年を取った。

「だって、触りたかったんだもん」
 
 そんな言葉、きっとえんちゃんには一生かかっても言えないだろう。
 だが、えんちゃんが持ち合わせた愛橋や不器用さが生む可愛らしさも、ユリには一生かかっても手に入らない。
 それを分かっていたからこそ、ユリは自分からえんちゃんに近付いたようにも思う。
 何もえんちゃんが一方的にユリに嫉妬していたわけではない。
 
 自分は自分以外の何者にもなれないから、人は人生でいつだって他人に嫉妬するし苦しみもするし悩みもする。そして孤独を感じる。

「みんな寂しいんだから、寂しいなんて言っても意味ない」

 えんちゃんは分かったように強がるけれど、彼女だってやっぱり誰かに寄り沿いたい。
 そんな彼女の気持ちが、悲しくて辛い思いが、じわじわと伝わる。
 それは彼女の言う通り、寂しくて苦しくて無力感に包まれて他人と関わることが馬鹿馬鹿しくて、それでも誰かと寄り沿えることを願ってしまうこの感覚を、僕らの誰もが知っているからなんだろう。

 
(2007年/日本/井口奈乙監督)

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