書くことは俺にとって大切なことではなかった。
必要なことだった。
言葉を扱う自信がなくなった時は、他の作家の作品を読んでまだ大丈夫だと思い直した。 アメリカの伝説的作家、チャールズ・ブコウスキーが自らの若き頃を自伝的に描いた小説を原作とした作品。自伝的作品であるから、主人公はブコウスキー同様小説家を志し、ブコウスキー同様にどうしようもない飲んだくれのクソッタレ男だ。
仕事をさぼってクビになり、朝から飲んだくれ、セックスし、職を探す。ようやく見つかった職もすぐにクビになり、またふらふらしながら酒を飲んではセックスする。
女の家に転がり込み、ギャンブルで小金を稼いでは散財し、またふらふらと街を彷徨う。
どっからどう観てもろくでないしのダメ男だ。
だが女も仕事も金も手に入れてはすぐに失い続けた彼が、唯一持ち続けたものがあった。
それは、言葉と酒。
どんなことが起こっても、決して揺れることのなかった書くことへの執念。
優しさや思慮深さや大らかさや、そのほかにも多くのものが欠けた人間だったとしても、その一点の揺るぎない信念だけで、彼はどん底で生き続けた。
孤独より、貧困より、恐らく彼は書けないことが恐ろしかったのだろう。
だからこそ彼は、書きたいものが書けさえすれば、他に怖い物などなにもなかったのだろう。
そんな彼の姿はやはりろくでなしのクソッタレ男のはずなのに、惚れぼれするほど格好いい。
劇中語られた「don't try.DO!」という言葉。
「挑戦するな、勝て!」と訳されていた。
この「don't try」という言葉は、彼の墓石に刻まれている言葉でもあるという。
彼にとっては挑戦なんてなんの意味も持っていなかったのだろう。
全ては勝つか負けるか。
信じ続けるか、諦めるか。
物語は淡々として退屈な感もあるが、主人公の孤独さと無骨さをうまく表していたと思う。なによりも、マット・ディロンがはまっていた。「クラッシュ」で一躍名を挙げた彼だが、この映画もまた彼なしでは成り立たないと思わせるような芝居だった。ふらふらと焦点が定まらずに彷徨う視線の感じが、まさに「売れない物書き」のそれだったと感じた。
ブコウスキーという人間を知るにも、主人公チナスキーの物語としても物足りない気がするが、観終わったあとは多くの言葉が胸に残った。そしてブコウスキー自身が詞を書いた「slow day」がゆっくりと沁みた。
(2005年/アメリカ・ノルウェー/ベン・ハーメル監督)