「嫌いなものを好きになるよりも、好きな物を嫌いになるほうがずっと難しいんだよね」 多少映画が好きな人なら「日本映画バブル」と言われてから久しいことをご存知だろう。もう少し詳しい人ならその表現が劇場公開作品の増加という側面を切り取ったに過ぎないということも、さらにはそれがデジタルビデオの普及で自主映画的作品が続々と劇場公開されているためで、必ずしも日本映画の質の劇的向上ではないということも知っているだろう。
大作=アクションやミステリ、コメディなどのエンタメ的映画と、単館や極小規模でしか上映されない映画=人間ドラマ、青春もの、といった二極化がずんずんと進んで行っている(というイメージを僕は根強く持っている)邦画界で、竹内結子主演のこの映画は間違いなく前者だ。そして当然のことながら、エンターテインメントだ。
ではエンタメ=人を描けないかと言うと、そうでもないらしい。監督の根岸吉太郎は前作「雪に願うこと」で国内の賞を総なめにし、「透光の樹」の評判は驚くほどに高かったベテラン監督。
静かに淡々と展開させる小粒な作品で人を見せられれば、なにかこちらとしてもその人の心の動きが見えてくるような気がしてくるものだし(そういった映画には他に注目するところがないからかもしれないが)、小粒な映画で驚くほど鮮やかに人の感情を描いた作品は多くある。
だが、「サイドカーに犬」は大作でありながら、紛れもないエンタメでありながら、なによりも困難な「人」を描くことに成功している、稀有な作品だったと僕は感じた。それも分りやすく大雑把に描かれた「人」ではなく、非常に繊細で捉えにくく僅かに震えるような「心の機微」だ。こういった作品は最近は久しく観ていなかった気がする。
決していちばんにはなれないと分かっていても、それでも求めてしまう。上手にそれを願うことも、それを伝えることも出来ず、別れが来れば言葉を飲み込み受け入れるしかない。
そんなヨーコさんの心境が、しみじみと伝わってきて切ない。
本当は少女とヨーコさんとの心の交流がメインの映画なんだろうけど、個人的にはその部分にいたく惹かれたのでした。かなり話題になっているので今さら言うほどのこともないのですが、その部分での竹内結子の芝居はほんとに抜群でした。
そこまで声を大にして「こりゃオススメだ!!」なんて宣伝するほどのものではないにせよ、退屈なく観れて、くすくす笑えて、じわりと染みる鑑賞後感に、長いこと浸ることが出来る確かに素敵な映画でした。
(2007年/日本/根岸吉太郎監督)