たいようの映画の感想

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【書評】本多孝好「FINE DAYS」(祥伝社)

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 歌手のすべての力の源泉は、もって生まれた声にある。
 この事情は、小説家だって、まったく変らない。
 大崎善生は、その意味では、生まれもった「美声」の作家だ。
 現在の小説の世界を見晴らしても、大崎さんにならぶほど、二枚目の声をした作家というのは数少ないのではないだろうか。
 すぐに思いつくのは、本田孝好くらいのものである。


(大崎善生著「九月の四分の一」文庫版収録の石田衣良による解説より)
 
 自分にとっての大崎善生とは、澄んだ言葉で洗練された孤独を綴る作家というイメージがある。それを「美声」と呼ぶのは確かに巧みな比喩であるように思えるし、本田孝好を引き合いに出すのも納得するだけの共通した感覚がある。
 だが二人が共に「美声」の作家であり、大崎氏が孤独を綴る作家であるならば、本多氏は物語を語る作家だ。

 本多孝好は推理小説でデビューしており、脚光を浴びたのも「このミステリーがすごい」でランクインしたことがきっかけなのだそうだ。しかし書店では本多氏の著作は恋愛小説のジャンルにあることが多い。
 この人が書く小説はミステリーか否かというのは難しいところだが、そんなジャンル分け自体が不毛であるとも、当然ながら思う。そのジャンル分けが難しいところ、つまりジャンルを超越する饒舌さが本多孝好にはあり、それこそが彼の最大の魅力なのだろう。

 僕は本田氏の長編をまだ読んだことがないが、今まで読んだ短編集(「MISSING」「MOMENT」)の話はどれも、簡潔に言えば現実離れしている。特にこの「FINE DAYS」はその兆候が著しい。呪い殺すわタイムスリップするわ超能力者まで出てくる。
 それでも物語として浮世離れしたSFや単なるミステリーと感じさせずに、人をしっかりと描くことで人間劇を読んでいるように思わせることができること、そして突飛な展開も不自然と感じさせない空気感を生み出せるのが、この人のすごいところなのだろう。

 僕はミステリーはほとんど読まないのでわからないが、こういうのを青春ミステリーとか言うんだろうか。

 主人公やヒロイン的女性はどれも似通ったステレオタイプだし、感情の機微を繊細に描くといった感じでもなく展開に予定調和を感じるときもあるが、それでも読みこめてしまう所以は石田衣良が言うように、先天的な才能とも呼べる「声」が素晴らしいからなのかもしれない。

 静かに胸に沁み入る言葉の数々が、実に心地よい。

(2003年/祥伝社/本田孝好)

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