たいようの映画の感想

映画を観て感動しても、少し時間が経てば結構忘れてしまうんです。そんな忘れんぼうな自分のための記録なんです。

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硫黄島からの手紙 (池袋シネマサンシャイン)

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 言わずと知れた巨匠クリント・イーストウッドが太平洋戦争最大の攻防と言われる硫黄島の戦いを描いた「硫黄島二部作」の第ニ作。第一作は十一月に公開された「父親たちの星条旗」

 日本兵が命を散らした"硫黄島"。


「父親たちの星条旗」が、硫黄島での戦いそのものよりも、硫黄島制圧後のアメリカ兵の物語をメインに据えていたのに対し、今作は戦火の真っ只中での物語を日本兵の視点から描いている。
 だがこれが戦争映画と言われてもいまいちピンと来ない。
 それはかつての戦争映画の売りであった「スペクタクル」もなければ「感動巨編」でもないからかもしれない。
 監督は感動を語るのではなく、人間と戦争の本質を冷静に見せ続ける。

「陛下のために」と爆薬を抱えながら突撃するもの。
 生き捕らえた米兵を無残にも殺害するものもいれば、手当てをして故郷の話をするものもいる。  
 潔く散るという論理に強いられて、愛するものの写真を握り締めながら自決すものの想い。
 生きては帰れないと悟りながら書く家族への手紙。

 中盤に、息絶えた米兵が持っていた母親からの手紙を英語が堪能な中佐が読み上げるシーンがある。その場に居合わせた日本兵は"鬼畜で規律のない根性なし"だと教わっていたアメリカ人も、自分達と同じように迷い、恐れ、愛するものをもつ人間なのだという当たり前のことにここで気付かされる。

 イーストウッドが訴えかけたかったことはまさにこの"当たり前のこと"であり、しかし今迄の映画では決してなし得なかったことであろう。

 戦争では自分達は正義であり、敵は悪である。この簡略的に記号化された構図がなければ戦争は成立しない。この構図があるからこそ兵士は命を賭けて戦えるのだ。
 だがいち兵士たちが抱えていた想いは敵も自分も寸分違わない。
「はやく戦争なんかやめて家に帰りたい」

 戦争の本質とは正義と悪の対立などではなく、ただの愛するものを持つ人間同士の諍いに過ぎないのだ。


 この二部作は観るものに一義的な正義や完璧な正義など有り得ない、ということを訴えかける。というよりも、そう納得せざるを得ないつくりになっている。
 それは登場する全ての人々を丹念に描き、彼らが抱えていた想いを紡ぎだすのと同時に、劇中で起こる出来事もニ作共に見てみると実に上手くイーブンにしてあることに気がつく。戦争映画にありがちだったカタルシスや無用な感動や顔のない兵士を徹底的に排除し、戦争が持っていた矛盾と悲劇と無意味さを静謐に語りあげている。

「硫黄島からの手紙」で驚かされたのは、役者陣の好演もさることながら、脚本を含めてこの映画を製作したのがアメリカ人であるということ。
 手榴弾での集団自決や、万歳突撃などの「潔く散る」というような当時の日本の風習や、出兵を控えた男が妻のお腹の中にいる子供に「これは誰にも言ったらいけないよ。俺は必ず生きて帰ってくるからな」と言う台詞に込められた様々な感情はなかなか外国人には理解しづらかっただろう。
 だがその緊迫感や暖かみというのは実に見事で、アメリカ人が脚本を書き、アメリカ人が監督をしたとは思えないほどに日本味溢れる日本映画だった。


 自分らは正義で敵は悪。
 この簡略化はアメリカにおいては現在においても変わっていないのかもしれない。戦争に負けたことのない国、本土を攻撃されたことがかつて一度もなかった国(9.11が初)。
 その国で作られた、「自分らが悪だと決めて戦っていた日本兵たちの姿」を描いたのがこの映画だ。

 史実に忠実でない部分があったり、「理想論を語っているだけで現実の戦争はこんなもんじゃない」という(主に年配の方達からの)批判もあるようだが、この二部作はこの先長い間語り継がれる名作であると思っている。
 そして現在のところアメリカでも概ね好評を持って迎えられているようで(米批評家連盟賞の作品賞も受賞しているし、年明けのゴールデングローブやオスカーでも作品賞の有力候補になるのは間違いない)、そのことも喜ばしく感じる。

 
 劇中、自分達の持ち場を守りきれなかったがために潔い自決を強いられ、手榴弾を胸に抱いて体を散らした男がいた。その男の吹き飛んだ腕にしっかりと握られた家族の写真が血に染まって行くシーン。あの映像が頭から離れない。
 一体どんな思いであの手榴弾のピンを抜いたのだろう。体が吹き飛ぶ間際に頭をよぎったのはどんな想いだっただろう。
 それは本当に、戦死という名誉を迎える潔い想いだったのだろうか。
 それとも、家族を残して自ら死を選ばなければならない無念だったのだろうか。

 答えは明らかだ。


(2006年/アメリカ/クリント・イーストウッド監督)

 

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