たいようの映画の感想

映画を観て感動しても、少し時間が経てば結構忘れてしまうんです。そんな忘れんぼうな自分のための記録なんです。

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全身と小指 (シネアミューズウエスト)

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【女は全身で恋をする。男は小指で恋をする。
 だから、私は生まれ変わり、あなたはいつまでも小指が痛い】

 
 このコピーとタイトルがあまりにも美しく秀作で、それだけで観ようと決めた作品。恋愛という概念をたったこれだけの文章で実に巧に描いているように思え、あとを引く美しさもある。

 監督は「ベロニカは死ぬことにした」の堀江慶。まだ27歳という若手だ。だがこれだけの人間ドラマを描けるというのは大した才能で、このような作品が単館で、しかもレイトショーでしか公開されないという現状を強く憂う。

 と書こうと観る前からなんとなく考えていた。だが、こんな映画を大々的に全国展開出来るわけがない。間違ってもシネコンの巨大スクリーンなんかでは上映できない。とんでもない映画だった。久しぶりに精神がやられるかと思った。恐ろしい映画だ。

 そう書いてしまうとまた酷い映画だと思われるかもしれないが、決してそうではなく、不思議な魅力ある作品だった。
 静謐な人間ドラマを期待して観た僕は、なかなか見えてこないストーリーや中途半端な描写や場面展開の分かりづらさ等に半ば諦めかけていた。人物の説明もないから誰が誰かも把握できないし、突拍子もなくコメディータッチになったりもする。なのに妙に全体が見えずにミステリー調に話が進む。観客は置いてけぼりだ。
 だが主演の池内博之と福田明子が時折、ものすごく魅力的な顔をする。二人ともどちらかと言えばラフな芝居をしていたように思うし、特別上手いと感じるわけではなかったけれど、特に福田明子の表情の変化には驚いた。小学生みたいな顔をしていたかと思えば、艶っぽい目で喘いでみたりする。
 
 基本的には退屈な語り口だが、これも時折、息が止まるような切ないカットが差し込まれている。久しぶりに実家へ帰った兄と妹の距離感の描写や、樹海での兄妹のやりとりのシーンなどはぐいぐいと惹きこまれた。このあたりはかなり好きなドラマだったし、福田明子が泣くシーンはどれも切なく心に残った。これが芝居の良さからか、あるいは監督の演出の良さなのかは分からないが、とにかく魅力的だった。
 特筆すべきは、中盤にある姉とのラーメン屋でのワンカットシーンだろう。一体何分あったのか。延々繰り返される実のない会話を微動だにしない固定カメラが撮りつづけ、こちらとしてももう笑ってしまうほどに長いカットだった。姉は食べ続け、弟は箸でラーメンをつつき続けて一切口に運ばない。そして時折会話をする。いつまで続くのかとにやにやしながら見ていたが、突如変わる池内の表情に鳥肌が立った。
(このカットは多分5〜7分くらいあったと思うが、その間姉役の片岡礼子は本当に食べ続けている。一口ずつを小さくして誤魔化してはいたが、軽く餃子一皿と御飯一杯だ。あれがもし数テイク重ねられていたとしたら相当にしんどかっただろうと想像してしまった)

 ここで終るか、とか、ここで終ったらすごくいい映画だ、なんて思うシーンが何度もあった。物語の全容は全く見えていなかったが、それで終らせてもいいような文学的雰囲気が漂っていた。
 だが終らない。ラストニ十分はもはやオカルトだ。思えばタイトルになっている小指に関する描写が全くないままで終ってしまうのは駄目だっただろう。純愛なんていう爽やかな空気も、近親相姦なんていう艶めかしい雰囲気もぶち壊すラストスパート。あまりの臨場感に、僕は思わず目を覆った。電話の音とか携帯のバイブ音とか苦悶の叫び声とか、本当に神経と心臓に負担だった。そりゃ小指も痛いさ。と言うか痛すぎる。

 観終わってみても、結局のところ物語の細部ははっきりとしない。これはあるいは僕の見方が悪かったのかもしれないけれど、少なくとも親切な説明はしてくれていない。中盤では、二人があまりに似ていないことから実は兄妹ではないのではとか、もう兄は死んでいるのではとか、そんな深読みもしてしまった。どうやらそのどちらでもないみたいだが、細かいところは全然分からない。
 もしかしたら確信犯ではないか、とも思う。
 間延びした語り口で退屈させ、時折笑わせて無防備にし、切ないシーンで胸に迫り、最後で恐怖に怯えさせる。
 そして観客の心理を四方に転がすようなこの展開がもし確信犯であったとしたら、それはそれでやはり凄い才能だ。もしかしたら考えすぎで、ただ文学的で不可解な映画を撮りたかっただけかもしれないけれど……。
 
 監督がこの脚本を"男女の恋愛観の差"というテーマで書き始めたというのを考えると、確かに頷ける面もある。
 だが観終って残るものは、やはりコピーとタイトルの美麗さと、さほど美人な顔立ちではないのにあまりにも可愛く美しく色っぽいヒロインの表情。そして小指。あー痛い。

 色々な意味で、すごい映画だった。


(2006年/日本/堀江慶監督)

| 映画 ☆☆☆ | 02:53 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

TBできませんでした。。

初めまして。TBできなかったので、コメントを残させて頂きます。
やはり男性には何か通じるものがあるのでしょうか?興味深く読ませていただきました。

| rino | 2006/09/25 22:13 | URL | ≫ EDIT

コメントありがとございます。
どうやらトラバ出来ない現象が続いている模様で申し訳ないです。

この映画は観てから二ヶ月ほどたちますが、なんか変に印象に残っている不思議な映画です。
ああ思い出すと小指が痛くなるー

| たいよう | 2006/10/04 00:13 | URL |

初めまして。
今更ですが、昨日DVDで観ました。
主演の福田明子さん(ファッション雑誌で拝見する事は多かったのですが)、なぜか目が離せない不思議な魅力を感じました。同性から見ても、 妹に欲情する純の気持ちがわかるような気がして。
 映画全体としては意味不明なところ、疑問も多く残っていますが、所々でゆったりと流れるトロイメライが美しく、観終わった後の何とも言えない余韻に浸れただけで、観た価値は十分にあると思いました。

| Hak | 2007/07/11 13:37 | URL |















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