[ネタバレあり]
この記事を書く段になって初めて気付いたが、ジブリ作品を劇場で観たのは初めてだった。
そう、もともとジブリ作品にはあまり興味がない。だが一応「ハウル」以外は全部観たことがあるし、人並みに好んでもいる。絵の綺麗さや物語の奥深さは何度見ても感心する。
「ゲド戦記」は当初全く観る予定がなかったのだが、先月あたりからアップされ始めた試写会等での評判があまりにも悪く(Yahoo!ムービーの感想コメント欄なんて荒らされた掲示板のように☆1つが並んでいる)、俄然観たくなってしまった。こういう部分は酷く天邪鬼な僕です。
原作は「指輪物語」や「ナルニア国物語」と並んで評されるほどの傑作ファンタジー。その三巻からあとの部分をオリジナルに脚本を作り直して映画化したもの。
さて、さっそく結論。
この映画は、勿論つまらないなんてことは決してない。広大な世界観を感じワクワクするし、伝えたいことも分かる。登場人物も格好いい。
だが、これがあの「ジブリ作品」であるとなると、話はまったく別だ。ジブリが手がけた映画でなければ、絶賛されることはなくとも、ここまで酷評されることもなかっただろう。少なくとも100点満点で平均45点くらいは取れる映画だったはずだ。
鑑賞中はさほど気にならなかったが、よく考えてみると分からないことだらけなのだ。
どうしてアレンは父を刺し、あの剣を奪って来たのか。
真(まこと)の名前ってなんなのか。
アレンを追いかけてた影ってなんだったのか。
あの剣の力とはなんだったのか。
どうしてテルーは龍になったのか。
そもそも竜ってなにものなのか。
世界の均衡云々は結局どうなったのか。
あらら。これだけ説明されず仕舞いのことがあれば、批判されるのも仕方がないかもしれない。原作の人気が高ければ尚更だ。
例えばテナーがゲドとの過去を回想する場面はあの程度の描写でも充分で、あれだけでも物語に奥深みを加えられている。だが、物語の核に関わるものは、やはりちゃんとしたヒントなり説明を掲示してくれなければついていけない。
結局のところ、原作の壮大な世界観を表現しようと詰め込みすぎて、あれもこれも中途半端、という状態に思えた。
さらに残念なことに、今までのジブリの大きな魅力のひとつであったはずの背景美がまるで見あたらなかった。銭湯の壁に書かれた富士山のように、均一でべっとりとした油絵のようなタッチだった。それも原作の世界観を出すための手法だったらしいが、完全にマイナスであったように思う。カットやアングルも単調で面白味がなかった。
恐らくメインテーマとしたであろう「いのち」に関してのことも、あそこまで何度もだらだらと伝えてくれなくてもよかった。言葉を変えて何度も「いのちは限られているけれど大切なんだ」と聞かされてもどうも胡散臭くなってしまう。
その上「ナウシカ」から始まるジブリ作品の殆どに共通してきていた「人間の功罪」についてまでどストレートに「世界の均衡を崩したのは人間じゃないか」とか「人間の欲深さは底が知れないんだ」なんて終盤に、それもラスボスに語られたら、ジブリのファンにとってはどうしようもなく興ざめだったことだろう。
まだある。子供に向かないという点だ。
魔法云々の話だしファンタジー的な雰囲気も満ちているのである程度の子供は楽しめるかもしれないが、ヒロインが竜になられてもどうだろうか。それに竜の映画のような宣伝をしているが竜は極少ししか登場しない。しかも死ぬ間際のクモはちょっとしたホラー映画だ。泣き出す子供がいてもおかしくないと本気で思う。(目が黒い穴になった顔は、「呪怨」だかなにかのホラー映画の予告編で観た記憶がある。)
なんだか僕も批判ばかりになってしまったが、前述したように、僕は決して退屈はしなかったのです。初めから期待してなかった分、予想以上に入り込むことも出来たし、映画の質としては充分に「ジブリ作品」と言えるだけのクオリティーであったと思う。
帰宅してから少しばかり原作の復習をしようと思い、ウィキペディア等で色々調べてみて感じたのは、僕は原作を読み始めたら恐らくどっぷりとはまってしまうだろう、ということ。第一巻なんて簡単なあらすじを読んだだけで面白い。若き日のゲドの過ちや苦悩から始まり、「自分との戦い」というテーマを敷き、ゲドの老年期までをあくまでゲド以外の人物を中心に据えて語るというのも新鮮だ。
もともと僕はファンタジーは嫌いではなく、
「ロード・オブ・ザ・リング」は最高に楽しかったし、スター・ウォーズは旧三部作と
「エピソード3」しか観ていないのに感動した。だからこの映画もそこそこに楽しめたのだろう。
原作の世界観を勉強してやっと真の名前の意味や、アレンの影の意味や、アレンがあの剣を抜いたことの意味が分かった。そのあたりの細部まで描けていたらと想像すると、非常に残念極まりない。
だが原作がどんなに傑作であっても、それを二時間に満たない尺で表現しようというのに、そもそも無理があった。
死から目を背けるというのは生からも目を背けること。
死があるということは、終わりがあるということは、神からの授かりものなのだ。
言いたいことは分かる。分かるがしかし。
期待しすぎず、説明不足な部分は想像力を旺盛に働かせて観れば、充分に楽しめます。
(2006年/日本/宮崎吾郎監督)