たいようの映画の感想

映画を観て感動しても、少し時間が経てば結構忘れてしまうんです。そんな忘れんぼうな自分のための記録なんです。

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花よりもなほ (丸の内ピカデリー)

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「幻の光」 「ワンダフルライフ」 「ディスタンス」 「誰も知らない」

 たった四作で実力を認められ、知名度を上げ、国内外から新作を期待されている日本人監督は、他には中々思い当たらない。

 自分が監督した映画が劇場で公開されるというだけでも、それは映画人として才能があったということなのだろうけど、是枝裕和監督はその中でも特出して秀でた才能がある気がする。
 そう思えるほどに僕は是枝監督の映画が好き。

 初監督で1から10までガチガチに組んで'映画'を構築した「幻の光」は除いて、他の三作に共通するのはドキュメンタリー、ノンフィクションの匂い。物静かで、自然で、どこかで本当に進行している風景をそのまま収めたような雰囲気。娯楽性は低く、社会への問題提起を含んでいるように見える内容。
 本人がどんな意図で創ったのかはさて置き、世間的な是枝作品の印象はそんな感じだっただろう。もちろん僕もそう。
 だからこそ、娯楽としての映画、フィクションとしての映画、物語としての映画を撮りたかった、観客の自分に対するイメージを壊したかった、そんな風に思ったのかもしれない。それならば意外だった時代劇も、監督にとっては案外必然だったのだろう。

 この映画に華々しさはない。主人公は侍なのに滅法弱い。舞台は貧乏な長屋暮らしの人々。地味な映画だ。
 固定カメラを使い、今までのような画面のブレがなく、役者の芝居的にも紛れもなく'娯楽映画'だった。地味なストーリーながらも、結構笑わせてくれるし、楽しい。
 一番感じたのは、暖かみ。仇討ちに踏み切れない腰抜け侍にも、汚い身なりをした長屋の住民にも、体を売って生活してきた女性にも、カメラは決して冷たい視線を浴びせない。
 思い返してみれば、加害者家族という誰も光を当てなかったポイントを描いた「ディスタンス」も現代社会へ'無関心'という警鐘を鳴らしたように見えた「誰も知らない」も、そうだったかもしれない。両作品とも決して易しくはない状態を映しながらも、その視線には暖かみがあったような気がする。

 この監督は独特の作風から、演出の方法が云々言われることが多いけど、大きな起伏なしに進ませ、かつ登場人物をしっかりと描き、ひっそりと心に響かせるような脚本が旨い、と僕は今回思いました。しかも今回は赤穂浪士も絡ませてありましたね。


 仇討ちへの疑問や不安を抱る宗左は、なかなか仇討ちに踏み切れない。 
 父上を殺した相手が憎くないのかと弟に罵られ、墓前に行くことも許されなかった宗左は、その時にどんな感情を握り締めたのだろう。

「桜が潔く散るのは、きっと来年も咲けることを知ってるからだよ。じゃなきゃ、そうそう死ねないよ」

「仇討ちだけが親孝行じゃないよ」

「父さんが死んで残したものが、憎しみだけなんて悲しいじゃないか」


 何気なく言われた彼らの言葉に、宗左は救いを感じ、自分なりの答えを見つけたのかもしれない。

 物語の大筋とは関係ないが、長年吉原で働いて生活してきたおりょうの、いつか長屋を出たいとムキになって言うおのぶに対する台詞が最も印象的だった。
 
「覚えておきな。あんたがこの長屋を出て行くときは、今よりもっと悪くなるときだよ」  


 公開前は岡田くんが主演ということで注目されることが多かったように思うこの映画だったけど、岡田くんがそれほど目立つことは決してなく(それが凄いのかな?)、全体の雰囲気としては、確かに是枝映画だったなぁ、という感想。
 これをステップに、次はまた鋭い映画を作ってほしいと僕は思ってます。

 それにしても、
 岡田准一、古田新太、浅野忠信、香川照之、加瀬亮、寺島進。
 あぁ、なんて豪華で渋いキャストでしょう。 
 芸人を起用したのは悪くなかったけど、キム兄以外は普通の役者さんでもよかった気がする。ああいう面白い脇役が出来る役者さんはたくさんいると思うし。

 ちなみに、初日だったのに客席の三分の二は空いてました。客層は若年と老年の方々が半々くらい。
 多分大丈夫だろうけど、興行的な結果が少し気になる……


(2006年/日本/是枝裕和監督)

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